世界遺産に認められる以前の屋久島に行った時、人気(ひとけ)のない同島の灯台に車で行ったことがあります。その少し高い場所からは樹々の間に光り輝く海が大きく広がり、南洋の暖かい風が吹いていたのを覚えています。この海に漕ぎ出して行く勇気は自分にあるだろうか...などと社会へ飛び出す直前の自分はぼんやりと考えていたことを思い出しました。この本はそんな大冒険を“愛のために”したひとがいたかもしれない、という思いから始まっているのではないのかなと今思っています。それにしても時空を超えた著者の想像力/構想力には驚きを禁じ得ません。良い映画やドラマあるいは物語は概してそういうものですが、平易な文章や言葉で描かれているにも関わらず、夢、愛、欲望、様々な人間関係、肉体的あるいは精神的な極限状態など多様な内容を表現しており、単なるファンタジーと最初から決めてかからない方がよいのでは、と思います。読ませます。
ベリンジアおすすめ度
★★★★☆
日本ファンタジー大賞優秀賞を受賞し、一気に鈴木光司の知名度を上げた作品。
やはり注目すべきはスケールの大きさです。
一万年もの間、引き裂かれても引き裂かれても、何度でも巡り会う二人の愛にはやはり感動を感じないわけにはいきません。
次々に変わっていく舞台の切り替わりもテンポが良く、読みやすさも好感を覚えました。
ファンタジーが好きな人には特にお薦め。リングみたいのは期待してはいけません。が、ループとはちょっと似ています。これが好きな人もどうぞ。
作者の本領発揮の冒険ロマンス談
おすすめ度 ★★★☆☆
日本ファンタジーノベル賞受賞作。3部に分かれている。1部は発端で太古のモンゴルの男女が永遠の愛を誓い合うが、他部族の襲撃により女が連れ去られてしまう。この時代、ベーリング海峡が氷で繋がっていたと考えれており、作者はこの説を利用して、女(とその子孫)が北米に連れ去られたことを示唆する。2部は本作のハイライトと言え、18世紀頃南海の島で起こる島の人々と海賊との争いが描かれる。1部の男(の子孫)は東南アジアのどこかから東へ海に渡って島にたどり着いている。これもポリネシアに伝わる伝承を利用したものであろう。島の人に味方する船乗りの活躍の描写が圧巻。この部の最後で男は東へ向かって筏で船出する。3部は1部の男女の子孫がアリゾナの地底湖で出会う話だが、この部は安手のラブ・ロマンスで出来が悪い。全体として、作者の本領が出た冒険ロマンス談。