もうクールでしびれますよ。おすすめ度
★★★★★
ジョニー・デップが大人しい会計士の風情で登場し、19世紀アメリカの西部の果てに職を求めて列車に乗っている場面から始まるが、これは正真正銘のミステリートレインなプロローグ。
ニールヤングの電気ギターのサウンドトラックが、モノクロームのフィルムとに、かなり溶け合って冒頭から映画のスタイルを決定づけていた。
ちょっとカフカの不条理を思わせるような前半から、不思議なインディアンとの出会いに至ると、観客にも、ますます夢も現実も境がなくなるような世界の奥へと案内されていく。
残酷な銃撃場面も、かのサム・ペキンパーとはまったく異質だが変なリアリティがあって、当時のアメリカ西部の無法ガンマンたちのみならず、銃がやたらとぶっぱなされる原点のようなものを感じさせる、そんな現実感も存在している。
傷を負い死に向かうに従って冴えていくような、ジョニー・デップの主人公の閉じては開き、を繰り返す目蓋と、暗転を繰り返すシーンの繋ぎがシンクロしていて、この映画自体がまるで呼吸しているかのようだ。
ジョニーが演じる主人公の名が「ウィリアム・ブレイク」。有名な詩人で画家(英国ロマン派の先駆者・1757-1827)の名。
それからアンリ・ミショーというメスカリンを使って実験的に詩作した詩人の言葉を最初に紹介したりもしているから、やっぱり知る人にとってはドラッグカルチャーのイメージとの共通性を感じさせるかもしれない。
ジム・ジャームッシュはそのスタイルとクールなタッチそのもので体験させるような、独特の魅力を持つ作家だと強く感じさせる。
映像そのもの、白黒画面のなかに映し出させれる凄い風景に目をみはるだけでも満足させる映画だろう。
特にラストの海に流れていくカヌーの点景を映した画面は素晴らしい。
誰の人生も一寸先は闇おすすめ度
★★★★★
冒頭、辺境の町に行くジョニー演じる主人公が、車窓からバッファローを見つけると、列車に乗っている男たちがいっせいに撃ち殺しますが、あれは、ネイティブアメリカンたちの食料でもあるバッファーローを殺して、ネイティブアメリカンたちを迫害しているのです。
西部劇という形をとりながら、とても新鮮だったのは、会計士というように主人公がカタギの職業だという事です。運の悪かった普通の青年なんですね。そして、撃たれた傷によって、本人も長くは生きられないとわかっているのに、殺される事の恐怖から、お尋ね者となってしまった自分を狙う、懸賞金ハンターたちを、長くはない自分の命を守る為に、殺していく事です。そして、場数を踏んで殺す事に手馴れていく、怖さと悲しさ。特に、ウィリアム・ブレイクが、死んだバンビと自分自身を、オーバーラップさせるようなシーンには、ロマンティックでせつなくなるような詩情を感じました。
あと、とても印象的だったのは、ウィリアム・ブレイクがお尋ね者となった張り紙を見て、花売りのセルまで殺したと書かれている事に、ショックと怒りをあらわにするシーンです。それは、そのまま、マスコミに傷つけられてきた、ジョニー本人とダブリました。
行く先々で、出会う人間に「煙草を持っているか?」と聞かれ「煙草は吸わないんだ」と答えるウィリアム・ブレイク。パンフによると、ジョニーが、ヘヴィー・スモーカーだったので、ジム・ジャームッシュ監督が面白がって脚本に書き加えたという話しと、当時、煙草が貴重品だった事と、ノーバディ役のゲイリー・ファーマーは、煙草は、ネイティブ・アメリカンにとって、聖なる儀式や祭りに必要なものであり、自分を導いてくれる人の為に、煙草を差し出す習慣があったそうです。
シャンテシネクラブ刊のパンフレットには、シナリオ掲載と監督とジョニー・デップのインタビュー掲載など充実した内容です。もちろん、バンビと添い寝するウィリアム・ブレイクの写真(見開き2ページ)もあります。ジョニーの英字のサインの横には、カタカナで「ジョニー」と書き添えられていました(可愛い/笑)この映画の宣伝の為に、ジャームッシュ監督とともに初来日しました。
諸行無常
おすすめ度 ★★★★☆
寡作の巨匠、ジム・ジャームッシュが19世紀後半のアメリカ西部、ウェスタンの世界を描いた全編モノクロの傑作、2時間ぶっ通しのニールヤングのPVともいえる心を揺さぶる彼の即興演奏。 構想から7年をかけて完成した長編作品です。イギー・ポップがちょい役で出てるのも見所かも。
概要
『ナイト・オン・ザ・プラネット』以来3年ぶりとなった、ジャームッシュ監督作品である。
舞台は19世紀の西部。とある町を訪れた会計士のウィリアム・ブレイクは、ある娘を助けたことから胸を撃たれ、瀕死の重体のまま町を出る。しかし追っ手に後を追われ、森に逃げ込んだ彼は1人のインディアンに助けられる。
胸に銃弾を抱えた瀕死の男と、彼を助ける無口なインディアンの不思議な旅を描く異色ロードムービーである。主演のジョニー・デップをはじめ、ロバート・ミッチャムなどの脇役陣も豪華。ロック界のカリスマ、ニール・ヤングが即興演奏したという音楽も聴きどころの1つだ。(山内拓哉)